鯨松

小湊を象徴する伝説の岩

 ある時、一頭のクジラが、きれいな松の生えた岩を背負って、小湊の澄んだ青い海を悠然と泳いでいました。クジラが、重たい背中の岩を置く場所はないかと思っていると、トマリの浜で男神様が手招きをしています。これは幸いとクジラが近づこうとすると、トマリの浜とは反対側の、ナトの浜では女神様が手招きをしています。


 どちらの神様も、クジラの背中にのっている、枝振りの良いきれいな松の生えた岩に一目惚れをして、湾のこちらとあちらで懸命に手招きをしたのでした。両方から手招きをされたクジラは迷ってしまい、トマリの浜とナトの浜の間を行ったり来たりしています。


 ナトの女神様は、髪を振り乱して帯や腰ひもが解けるのも気付かないほど夢中で手招きをしました。クジラは女神様の盛んな手招きで、そちらへ近づいて行きました。不思議に思ったトマリの男神様が、クジラの向かう方を見ると、ナトの女神様が着物がはだけるのも気づかず、あられもない姿で手招きをしています。


 そこで男神様は、女神様に「腰ひもが解けてみっともないぞ」と大声で叫びました。自分の姿に気づいたナトの女神様は、顔を赤くして着物を直し始めました。それ今のうちに、と男神様が懸命に手招きをすると、クジラは男神様のところへ近づこうとしましたが、重たい岩を背中に載せたまま散々、あっちへこっちへと泳いだので、オッコの川の河口まで来たところで力つきて、岩の下敷きになって死んでしまったのです。


 それから毎年正月には、子どものクジラがお母さんクジラを慕ってやって来て、岩の近くで鳴く姿が見られると言います。

参考文献 隣重俊『小湊むんがたり』1993年
2010年4月10日14時 モーターパラグライダーにて撮影

2010年4月10日14時 モーターパラグライダーにて撮影
2017年7月15日 ドローンにて撮影

大川河口のトマリ浜方面に位置し、現在は岩の頂上にあった松は枯れてありません